千葉県佐倉市 わたなべ司法書士事務所 司法書士 渡辺健治 です。
自分の死後、相続人が困らないように遺言書を書いておいた方がいいと知人から勧められたが、遺言書を書くことの具体的なメリットがよく分からず、そのままになっている方も多いと思います。
今回は、遺言書を書くことのメリットや、遺言書を書いていなかったために相続手続きが上手くいかなかったケースなどについて、お知らせしたいと思います。
【事例】
配偶者や子がいないAは、長年勤めた会社を定年退職。退職後は年金を受給しながら、一人で悠々自適の生活を送っていた。ところが、ある日突然、交通事故に遭い、その後遺症のために一人暮らしが難しくなった。弟Bの勧めで、B宅で暮らすこととになり、生活全般についてB及びその家族の世話になった。AはBにとても感謝し、「自分が死んだら、自分の銀行預金をすべてBにあげる」と事あるごとに言っていた。数年後、Aは、B及びその家族に看取られ、亡くなった。Aは、生前、遺言書を書いていなかった。Aの相続人には、Bのほか、妹Cがいる。
この事例で、BがAの銀行預金を取得するには、相続人全員による遺産分割協議で取得者をBと決定しなければなりません。そして、Bを銀行預金の取得者とする遺産分割協議書(BCの実印を押印し、その印鑑証明書を添付)か、銀行所定の書類(これにもBCの実印を押印し、その印鑑証明書を添付)を銀行に提出しないと、銀行はBの払戻し請求に応じてくれません。
Bは、Cとの関係は良好であり、自身がAの世話をしてきたので、Cは快く実印の押印と印鑑証明書の提供に応じてくれるだろうと思っていたが、Cは、銀行預金の残高が高額であることを知ると、態度が一変し、自分にも相続権があるから簡単には実印を押せないと言ってきた。
実際、このような相談をよく受けます。Bは、Aの世話をしてきたにもかかわらず、預金全額の取得を諦めざるを得ません。そして、Cとの話し合いが上手くいかなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになるかもしれません。
では、Aが、「銀行預金のすべてをBに相続させる」との遺言書を書いていたら、どうだったでしょうか。答えは、Bがその遺言書を銀行に提示すれば、銀行はBの払戻し請求に応じてくれます。Cとの遺産分割協議書は不要になります。
遺言書は、相続人全員の遺産分割協議を経ずに、遺産の取得者を決定できる効用があります。ですから、①相続人同士の争いを避けつつ、お世話になった人に確実に遺産を取得させたい場合 ②相続人となる人の中に、行方不明の人や疎遠になっている人がいて、遺産分割協議ができないことが想定される場合 ③相続人となる人の中に、認知症などのために意思表示ができない人がいて、遺産分割協議ができないことが想定される場合などには、遺言書を書いておくといいでしょう。
そのほか、遺言書を書いておいた方がいい場合として、①相続人以外の第三者に遺産を取得させたい場合 ②子がいないので、配偶者に遺産の全部を取得させたい場合 など
ただし、遺言書は法律の定めに従って書かないと無効になることがあります。書き方が分からない場合は、ぜひご相談ください。